
損大利小は、感情的な判断がきっかけとなることが多い。この投資は危なそうだと数字ではなく、投資とは無関係の感覚と経験がトリガーとなって引き起こされる。
人がマイナス面に過剰反応してしまうことはプロスペクト理論により証明されており、しっかりと意識改善していかなければプラスサムの市場でさえ容易に負けを積み重ねていくことになる。
一番危険なのが許容範囲から逸脱するほど負けると痛みが変わらなくなることだろう。たとえば、競馬で100万円を負けて取り戻そうとさらに100万円を投入してしまうのは100万でも200万でも痛みが変わらないからだ。
この痛みのシグナルが壊れてしまえば借金まみれになることは難しくない。こういった心理を悪用した投資詐欺がインターネットで増えており注意したい。
プラスサムの市場なら誰でも努力なしで勝てると思っている人は多い。だが、ほとんどの人は負ける行動を良しとするため、一部の例外的な強者により利益が集まってしまう。
その負の要素を持たない一握りの強者に太刀打ちすることはできない。人間なら誰しも存在する負の影響を抑えない限りマイナス収支になることは研究文献を読めば明らかである。
いくら予想が上手くても心理的な弱点を意図的に克服できなければ収益を増加させることは難しい。いかに感情による判断が価値に見合わない強い決定権を持っているかが分かるだろう。
これは止めるには、そのシグナルが本当に危険なのか裏付けを取る習慣を身に着けるしかない。たとえば、競馬で言えば年間プラス収支にも関わらず的中率が低いだけで危険そうと判断する人がほとんどだ。
その感情的な判断に従わずに中身をしっかりと吟味する。そうすればムダな買い目を抑えてのものと判断できるだろう。むしろ、ムダな資金を減らしてプラス回収なのだから優秀だと分かる。
同じ数字を見ても人により評価が変わるという事実は非常に恐ろしい。もう的中率が一桁なら、そんなのは受け入れられないと考えることも拒否してしまうだろう。それぐらい数字は事実的でありインパクトが大きい。
だからこそ、しっかりと数字の意味を考える必要があるのだが、ほとんどの人はチャンスではなくリスクと勘違いすることでチャンスに嫌われた人生を過ごしていくことになる。
こういった事象は競馬だけではない。株式投資においても日常的に起きていることだ。
「損切りは早く、利は伸ばせ」
相場をやっている人間でこの格言を知らない人はいないと思うが、大半のプレーヤーは「損切りは遅く、利益は早く確定」してしまうことを選ぶ。投資理論の先駆けであるV.K.タープも指摘しているように、この格言の「損切り」も「利益を伸ばす」も、どちらも退出(手仕舞い)に関わる言葉だ。
これは退出という技術がことのほか難しく、重要であることを示している。
そもそも退出ポイントを事前に考えていないことも問題だが、これらがうまくいかない理由は、よく言われる通り、心理的な問題に起因するところが大きい。
あるトレードから生じる結果には「勝ち(利益が出る)」も「負け(損を出す)」も存在して当たり前なのだが、「損を出すこと」=「悪いこと」「失敗」のように考えてしまう人は少なくない。
そのように考えるから「自らの失敗を認めたくない」という感情が働く。そしてポジションを塩漬けにし、手仕舞いしないことを正当化するありとあらゆる理由を考えつく。ありがちなことだ。
このような心理に陥りやすい人というのは、自我の強い人である場合が多い。自我の満足を最優先するような人は「自らの失敗を認めたくない」「負けることは恥ずかしい」という心理が、そうでない人より強く働くのだ。
伝説となったタートル投資の1人カーティス・フェイスの言葉を借りれば、「トレーダーとしての自我はいい友人になれない。自我は正しくありたがり、予測したがり、秘密を知りたがる。自我は、利益の妨げになる認知のゆがみを避けられないので、良好な取引を行うことがきわめて不得意なのだ」
認知のゆがみを取り去って見れば、「負けトレード」は、「勝ちトレード」がそうであるように、トレードシステムのもたらす結果の一部にすぎない。
実のところ、システムの指し示す退出ポイントが来たら、ただ機械的に手仕舞いすればよいだけの話なのだ。
「勝ちトレード」の利益を伸ばせないのも同じ理由によるものだろう。
「一度出た利益を失うこと」=「悪いこと」「失敗」のようにとらえれば、利益を確定したほうが見かけ上「正しいことをした」ように見え、自我を満足させるからだ。
しかし、実際のところ「大きな勝ち」を狙うシステムにおいて、そのチャンスを自らつぶしてしまうような退出をすると、システムの一貫性、ひいてはシステムのエッジをも失うことにしかならない。
システムが命じるのであれば、時として一度出た利益の30%や50%や、時には100%が消え去ろうともじっと耐えなければならない。
皮肉なことに、こまめに利益を確定するより、一度出た利益のかなりの部分を市場に返すシステムのほうが、ずっと利益が大きくなることが多いのだ。
トレーダーは相場に臨む時、機械のようでなければならない。
相場に参加するのは、一時の自我を満足させるためではなく、勝つためなのだ。