協力ゲームの優位性と期待値の概念

協力ゲームで競馬を支配する

協力ゲームでは、相手の戦略が分かっていて、相手が戦略を変えないという前提において、自分だけが戦略変えると他の全プレイヤーが損をしてしまうような状況が起こりうる。

競馬予想の基本は変わってこなかった。ほとんどの馬券購入者が今でもJRAデータに依存して予想することを良しとしている。そして、それが今まで最適な戦略として機能していた。

つまり、これは誰も戦略を変えていない硬直状態であると言える。この状態で戦略を変えたら負けやすくなるだろうか。いや、そうはならない。なぜなら、均衡が成り立つのは非協力ゲームの場合のみだからだ。

競馬は長らく個人で予想する非協力ゲームの状態にあった。しかし、ネットが発達した今はどうだろうか。少なくとも投資競馬が行われているこの場所では期待値の高い情報を共有する協力的なゲームが行われている。

つまり、数理分析方法論における弱支配戦略を始めた私たちに利益が流れ込みやすくなった。私たちは優位な立場にあるが、さらに強支配とすることで収益を加速させることができる。

そう、強支配とするためにやるべきことは収益を加速させるのに必要な資金管理(マネーマネジメント)に他ならない。

このボーナス時にボーッとしていること自体が損失である。今ある期待値をフル活用するために収益性の向上に全力を注ぎこめば、その投資に見合う以上の報酬を手に入れられる可能性は高いのだ。

期待値とオッズの魔法使い

ある日、神秘的な、あるいはみすぼらしい風貌の老人が現れ、正100面体のすごいサイコロを手にしてこう言った。

老人「今日からあんたの担当になったのでゲームをしに来たよ。任期は1000日間だ」
あなた「担当って何の?任期って?」
老人「(無視して)これから毎日一回、このサイコロを振って、1から90の数字が出たらあんたに10万円あげる」
あなた「(何だかよく分からないが、欲が頭をもたげる)91から100が出たらどうなるんですか?」
老人「かわりにあんたの魂を…というのは嘘で、別に何もない。10万円はあげないけどね。」
あなた「10%は何ももらえないのか…。それは困るなあ(何が?)」
老人「欲深いな、あんたは。だが安心しろ。そういう者のためにオプションがある」
あなた「オプション?(っていうか、あんたは何者だ?)」
老人「サイコロゲームはしなくていい。替わりに毎日8万円あげる」
あなた「8万円かあ。…でもそれは必ず、つまり100%もらえるんですね?」
老人「さよう。(サイコロを構えて)さあ、どっちにするね?」

あなたならどっちにします?

これは期待値の極めて簡単な例だ。
どちらを選ぶのが有利か、すぐ分からなかった人は少し注意したほうがいい。

A. 90%の確率で10万円がもらえる。ゲームは1000回できる。
B. 100%の確率で8万円がもらえる。1000回とも、必ずもらえるから8000万円だ。

この程度に単純なゲームの場合は、ゲーム1回あたりの期待値は以下の式で求められる。
(勝ったとき貰える額×勝つ確率)-(負けたとき損する額×負ける確率)

A. (10×0.9)-(0×0.1)=9(万円)
B. (8×1)-(0×0)=8(万円)

※リスクとリターンの内訳がもっと複雑なゲームの場合の期待値の計算方法については「魔術師たちの心理学」を参照のこと。しかし、それも内訳さえわかっていれば、たいして難しい計算ではない。

明らかにAを選んだほうが有利だ。
Bは確実に8000万円もらえる。リスクはゼロだから、これも悪くはない。
しかし、Aを選べば確実性は少し劣るが、確率どおりにサイの目が出れば
9万円×1000回=9000万円もらえることになる。

「91から100の目が出た場合は1万円払う」というペナルティがあったとしても、
A’. (10×0.9)-(1×0.1)=8.9 となり、A’のほうが勝っている。

ここではゲームの回数が限定されているが、偶然が結果を左右するゲームを永遠に続けた場合、ゲームの結果は確率通りの数字(この場合勝率90%)に収斂していく。

偶然が結果を左右するゲームでは、短期的な結果の良し悪しに判断が左右されてしまうことが多い。

この例で言えば、ゲームの最低単位である一回の結果では、Bは完全にノーリスクで8万円だが、Aを選ぶと10%の確率で0円になる(A’ならマイナス1万円)。この結果のみから一回のゲームの期待値を計算するとBは8、Aは0(A’なら-1)になる。ゲームの回数が少なければ、リスクのあるA(A’)の選択はかなり不安定であるのは確かだ。

つまり、短期的な結果だけから判断すると、Bのほうが一見「正しそうに見える」ことも十分ありうる。

ここに、偶然が結果を左右するゲームにつきものの典型的なバイアス(認知のゆがみ)「常に正しくあろうとすること」が働くと、「見かけ上正しそう」な(勝率の高い)Bの選択にひき付けられてしまう。

しかし、言うまでもなく「勝つこと」と「見かけ上の正しさ」とは別物だ。

ゲームは一回だけではない。偶然が結果を左右するゲームに参加する場合、長い目で見ることが非常に重要だ(偶然が結果を左右するゲームの別の鉄則、1回あたりのリスクを小さく抑えることが重要なのは、より長くゲームに参加し続けるためだということを思い出して欲しい)。短期的な視点から安心感を求めるとB(期待値は8)も良いように見えるが、長い目で見ると、期待値が9であるAを選んだ場合に比べ、ゲーム1回あたり常に1万円損をし続けることになる。

あなた「あのう…」
老人「何だ」
あなた「ひょっとして、他にも「オプション」があるのではないですか?」
老人「ほう、よく気づいたね。実はあるよ。面倒だからいつもはこの2つでやっているがね」

老人は懐から何やら紙を取り出して眺めてからこう言った。
老人「これはどうかな。1~50が出ると19万4800円。51以上は0円だ」
あなた「なんだか電機屋のチラシみたいですね。しかし勝率50%は厳しいな」
老人「もっと極端なのもあるよ。1が出たら1000万円、それ以外は0円だ」
あなた「…ちょっとその紙見せて貰えませんか?」

その紙には出た目とそれに対応して貰える金額が記されていた。
眺めているうちに、そこに何かの秘密が隠されているような気がしてきた。
突然なにかがあなたの頭の中でひらめいた…そうか、そういうことか!
あなたは叫んだ。
「決めました!」

その時、老人の携帯が鳴った。
老人「ちょっと待ってくれ(あなたを制して)…え、人違い?。ふんふん、わかった、すぐに行く。ありがとう、ジュディ」
あなた「…(ジュディ?)」
老人「すまんが、あんたじゃなかった」
あなた「え?」
老人「悪かったなあ。ちょっとした手違いがあってな」
あなた「そんな…」
老人「すまんがこうしてはいられない、次の仕事がある」
あなた「待ってください!」
老人「その表はコピーだからあげる。あんたは何かに気づいたようだ。きっとまたどこかで会う気がするよ」

そう言うと、老人は突然宙に浮き上がった。老人の背中には大きな翼が生えていた。
曇り空からこぼれる日の光を背に、しばらく上空をはばたいていたが、あなたに少し手をあげるような仕草を見せたあと、大きく空に舞い上がった。

みるみる小さくなっていく老人の背中に向かってあなたは叫んだ。
「おじいさん、あなたは一体誰なんです?」

見上げた空の雲間からもれる光をまともに見て目がくらんだ。その中で、雲の絶え間から振りそそぐ声をあなたは聞いた。
「私の名前はウィザード・オブ・オッズ(オッズの魔法使い)。リスクとリターンはいつも私の手の中にある。それでは、いつかまた会おう。さらば!」

むろん、このような老人が現実に現れることはない。しかし、偶然が結果を左右するゲームにはつねに彼が潜んでいる。彼が示すオッズに注意しなければならない。