投資理論の先駆けであるV.K.タープ博士が「魔術師たちの心理学」で、(心理面は除いて)トレードの成績に最も重大な影響を与える要素として、いちばん力を注いで説明したのが「ポジションサイジング」である。理論的な側面では、この本の最大のテーマといってもよい。
ポジションサイジングとは端的にいうと「1回のゲームにいくら賭ける(リスクをとる)のか」を決定するアルゴリズムである。
いわば「賭け金決定システム」とでもいうべきものだ。トレードのスタイルとは関係なく、これを理解することは、非常に重要な意味を持つ。
「いくら賭けるのか」―これはまさに、ギャンブラーが長年頭を悩ませてきた問題だろう。ポジションサイジングの理論も基本のアイデアはギャンブル理論をベースにしたものだ。
ポジションサイジングを知ることは「いくら賭けるのか」という問題に理性的な解決を与えてくれるだろう。
- マーティンゲール戦略と逆マーティンゲール戦略
マーティンゲール戦略とは、例えば丁半博打で「負けたら次は賭け金を二倍にする」という賭け金システムである。勝率50%のゲームだから次は勝つだろう、というわけだ。
もし、次勝てなくてもその次は…。資金が無限に近いほど莫大であれば、何回か連敗した後の一回の勝ちが、全ての負けを帳消しにしてくれる。マーティンゲール戦略とは、そういう考え方である。
しかし、これは「負けている時にリスクを増大させ、資金をもとに戻すためだけに(利益のためにではなく)、大きなリスクを引き受けなければならないという点で、非常に割にあわない戦略だ。
伝説のトレーダー集団タートル流投資の1人カーティス・フェイスはこう述べている。
「埋没費用効果(既に投入して(失って)しまった資金に固執する心理)」という認知のゆがみにも通じる考え方である。失ってしまった資金を取り戻す為に、リスクが増大すると知りながら賭ける。―これこそ、ギャンブラーが破滅する典型的なパターンである。
株式投資でよく使われる『ナンピン』も基本的に同様の発想から成り立つ戦略である。
ところで、勝った場合はどうするのだろうか?
勝ったあと、賭け金は2倍にするのか?
答えを言えば、マーティンゲール戦略を採用しているのであれば、すべきだ、ということになる。
しかし、それは負けを帳消しにするために賭け金を倍々していくのと同様に、勝ちを帳消しにするために賭け金を倍々しているのと同じことである。何のためにゲームをしているのかよくわからない。
そこで、マーティンゲール戦略を取る人は、勝っているときは賭け金を少なく(2倍以下)にして「利益を保存する」という行為に出ようとする。
その結果はどうなるか―「負けている時にリスクが大きく、勝っても利益が小さい」という状態に陥る。「損大利小」戦略の完成である。
上で「マーティンゲール戦略を採用しているのであれば、(賭け金を2倍に)すべきだ」といったのは、その戦略をとれば、少なくとも「損大利大」な戦略となり、ゲームの結果は大きく上下に振れながら、±0(本来の期待値)に近づこうとするからである。もちろん、資金が無限だとしての話だが。
逆マーティンゲール戦略というのは、その逆の方法で、「負けているときには賭け金を減らし、勝っているときは賭け金を増やす」という方法だ。
いろいろやり方はあるだろうが、例えば、単純に「常に資金の1%をリスクとする」というルールを作ればよい。資金が10000ドルだとすると、100ドル賭ける。
勝った場合の資金は10100ドルだから、次はその1%の101ドルを賭ける。負けた場合の資金は9900ドルだから、次はその1%の99ドルを賭ける。
(お気づきだろうが、この方法でプラスの期待値を持つゲームを続けると、複利の力も働く。)
この場合の結果はどうか?
残念ながら、丁半博打では期待値が0だから、長期的な予想は±0である。
しかし、この2つの戦略には破産リスクの上で決定的な差がある。
・マーティンゲール戦略は幾何級数的にリスクが増大する。資金を10000ドルとして、仮に1ドルの賭け金から始めても、1000ドルを失うまでに10連敗、破産するまでに14連敗しか要しない。
・逆マーティンゲール戦略だと、100ドル(1%リスク)の賭け金で始めたとして、10連敗での損失は950ドルとあまり変わらないが、14連敗しても損失は1320ドルにしかならない。
どちらが長くゲームのテーブルに留まっていられるかは明らかだろう。
いちおう言っておくと、丁半博打のように期待値0のゲームは、プレイヤー側に何のエッジ(優位性)もない運次第のゲームであり、ツイた時に勝ち逃げする、という方法以外で勝つことはできない。
しかし、この例をみれば、「いくら賭けるか」の戦略が、「どれだけ長くゲームのテーブルに留まっていられるか」ということに、いかに大きな影響を与えるかは理解してもらえるだろう。
逆マーティンゲール戦略に準じたポジションサイジングのモデル(「魔術師たちの心理学」には、リスク率モデル、ボラティリティモデルなどのアルゴリズムが例として示されているので、詳しくはそちらを参照)は、破産リスクを小さくし、資金の大小に関係なく長期にわたって安定して資金を増加させるために、必ず理解しておかなければならない重要な概念である。
繰り返しになるが、これは基本的にトレードのスタイルとは独立した概念であり、中長期のトレンドフォローであろうが、短期のカウンタートレードであろうが、必ず知っておくべきことだ。
投資競馬において逆マーティンゲール戦略が生きるシーンは少ないが知識として持っておいて損はしない。比較的やりやすいのは単勝馬券であるが、将来に向けた投資経験として積んでおきたい人は試してみると良いだろう。
競馬の場合は、年間の総投資額を元に1か月当たりの投資額を割増する方がコントロールしやすそうだ。どれだけの金額を賭けるかというテーマに明快な答えは存在しない。それだけに経験がモノをいうことになるだけに自分に合ったやり方を見つけられれば大きなエッジ(優位性)となるのは間違いない。
- 投資の8割は“退屈”との戦いである
あらゆる損益のグラフを眺めると、ほとんどの時期は、小さな勝ちと小さな負けを繰り返すだけの時期であり、ほんの一部の「大きな勝ち」や「大きな負け」が成績に決定的な影響を与えることなども、よくわかる。
こうしたゲームには、チャンスが来るまでの、殆どの時期の退屈に耐える忍耐も必要だ。
この退屈(それもシステムの一部なのだが)に耐えられず、一貫性を放棄して大きなリスクを取ってしまい失敗してしまうというのもよくある過ちだからだ(たまたま勝ったとしても、過ちを深めるだけの結果にしかならないから、結局は同じである)。
期待値に従うことの重要性や、リスク率によるパフォーマンスの違い(例えば1%リスクと2%リスクでどのようにパフォーマンスの傾向が変わるのか)などについても知ることができる。
例えば次のようなことだ。
・期待値がプラスのゲームでは、リスク率が高いほうが大きな利益が期待できる(平均的な損益曲線は良くなる)。
・しかし、リスク率が高いほど、運による成績のバラつきが大きくなる。これは、不運な時期の損失―ドローダウン(損益)が大きくなる=破産リスクが高くなることを意味する。
これは同時に、リスク率が低いと、ドローダウン(損益)は小さくなり、安定感は増すが、ツイたときに大きなリターンを得ることが出来なくなることをも意味する。
・1%リスクと2%リスクでは、数値上の見た目以上に、大きなパフォーマンスの差が現れることが感覚的にわかる。
たとえば、タートルズでは2%リスクを上限とするルールを採用していたが、これがかなりリスクの高い、攻撃的なトレードであったとわかる(現に、カーティス・フェイスは60%を超える、ほとんど致命的ともいえるドローダウンも経験している)。
・このゲームはプレイヤーにアンビバレントな感情を引き起こす。利益は欲しいが、ドローダウンは小さくしたい―。
実のところ、適切なリスク率というものは、プレイヤーがどの程度のドローダウンを許容するかによって変わるもので、これが正解という数値は存在しない。
従って、期待する利益と許容可能なドローダウンの適切なバランスポイント(リスク率)は、プレイヤー自身で発見しなければならないものなのだ。
ポジションサイジングを理解することの重要性については、このくらいで十分だろう。
あとはプレイヤー自身で答えを見つけるしかない領域なのだ。
場合によっては、利益目標を下げる必要があるかもしれないし、場合によっては、より大きなリスクをとる覚悟をしなければならないかもしれない。
許容できるリスクの範囲内で、十分に目標を達成できるとよいのだが―。全てのプレイヤーにとって、よくよく考えてみるだけの価値はあるだろう。